みなさんこんにちは、パートナーサクセスの赤塚です。 今回のブログでは、2024年12月1日から6日 にかけてラスベガスで開催されたAWS 最大のイベント re:Invent 2024 に参加した様子について、キーノートを中心にレポートいたします。
今回発表されたサービスの詳細については業種別・ソリューション別に整理されたAWS Japan 公式の資料やオンラインセミナーもありますのでぜひご活用ください。
別途ワークショップ関連のレポートも書いていますのでこちらもご覧ください。
re:Invent について
AWS re:Invent は2012年から行われている AWS 最大の学習型イベントで、今年は12月1日から6日 (現地時間の月曜日から土曜日) に開催され、世界各国から50,000人以上の方が参加しました。 イベントのメインコンテンツとなるキーノートや様々なセッションに登壇するスピーカーはおよそ3,500名、セッション数は1,900にものぼります。
大まかなスケジュールとしては、月曜日がウェルカムレセプション、火 - 木がメインのキーノートやセッションの他、様々なアクティビティ。金曜日は人気があったセッションの再演などで、多くの方は日曜日から金曜日までの滞在になっているようです。
会場となるエリアはストリップストリート沿いのマンダレイベイ リゾートホテルからre:Play と呼ばれるアフターパーティが催される地区にあるモノレール駅のSahara station あたりまでの約2マイル(約3キロ)に広がり、各会場は専用のシャトルバスで移動できます。 またイベントに必要なネットワークを確立するため、会場間は地下に敷設された専用の光ファイバーで繋がれています。
青い点の部分が私が宿泊していたフラミンゴホテルです。
なおAWSのエグゼクティブは会場間をヘリコプターで移動しているとの噂がありましたが、実際にあるエグゼクティブに直接聞いてみたところ「ヘリではないが近道があるよ」とのことでした。
日本からre:Invent に参加する方法
日本からre:Invent に参加する場合はいくつかの方法があり、AWS Japan が委託?している旅行会社のジャパンツアー やパートナ企業がお客さんをアテンドするツアーのほか、個人手配での参加など様々です。
旅行会社やパートナー企業のツアーの場合、日本語での情報提供や参加者同士の交流会が用意されているなどの特典もあります。 今回あるツアーに参加された方がタクシーにスマートフォンを忘れてしまった際に添乗員の方が素早く見つけてくださったそうで、こういった海外旅行のトラブルにも頼りになるのはツアーのメリットですよね。 また会社の経費で参加する場合、経理上のルールによってはイベント後にまとめてツアー会社から請求されるのもメリットのようです。
一方でイベント中は様々なセッションや交流イベントも行われているため、日本未発表のセッションの情報を現地で誰よりも早くキャッチしてフットワーク良く動き回りたい、航空会社や飛行機の座席指定、ホテルの場所やタイプは自分の好みで選びたい、せっかくならラスベガス以外の地域も経由したいなどの場合は個人手配の方が向いているでしょう。
個人手配の場合、例年AI やサーバーレス関連のワークショップはMGM やマンダレイベイ側が多く、キーノートや展示会場はベネチアンとなり、目的に応じて宿泊のベースを決めると良いかもしれません。 ちなみにバスで移動する場合、ホテル内の移動だけでもそれなりに時間がかかるため、ギリギリでも30分以上は余裕を持つことをお勧めします。
キーノートセッション
昨年の内容はAmazon Q の発表が一番ホットだった印象でしたが、今年は全体としてAWS の細部にわたって生成AI が組み込まれてきたような厚みがあり、個人的には頭から煙が出そうなほど濃厚なキーノートとなりました。
CEO Keynote with Matt Garman
re:Invent としては2日目となる12/2 午前8時から1つ目のキーノートが始まります。 実は早朝6時くらいからヨガなどのアクティビティが行われており、私が5時起きで会場に向かうとすでに数百人の方が行列を作っていました。
キーノートの初めにAWS コミュニティについての紹介があり、現時点で世界120の国に600以上のコミュニティが存在し、ユーザー同士の学びやAWSへの貴重なフィードバックを生み出していると説明されていました。
またAWS は創業当時からスタートアップ企業に対して継続的に支援を行っており、2025年には10億ドルのクレジットを提供するとの発表がありました。 エンタープライズ企業や政府はスタートアップの成果を参考にしてAWS の採用を判断しており、AWS がアーリーアダプターとなるコミュニティやスタートアップから質の良いフィードバックを得ることは今後も成長を続けるために必要な要素となっていると言えます。
2003年、ビルディングブロックのアイデアから生まれたAWS
キーノートの本題に入る前に、2003年当時AWS 構想時点のアイデアとして、システムに必要な個々のコンポーネントを分解したものがAWS の基本コンセプトであるビルディングブロックとなったと説明がありました。 以来、2006年にAWS がサービスを開始してから18年経った今も数百ものサービスに反映されている基本概念です。
ソフトウェアの設計思想をハードウェアに持ち込むような構想は、仮想化が進んでいた当時でも非常に斬新さを感じた方は多いのではないでしょうか。
4つのビルディングブロック
Matt Garman 氏は、あらゆる規模のユーザーがAWS を選択する理由としてセキュリティがあり、AWS の中核となる基礎レイヤーであると前置きした上で、ビルディングブロックを4つに分けて紹介しました。
1コンピューティング
ビルディングブロックの一つ目はコンピューティングです。
AWS の開発に関する持続可能性と、データセンターを含む膨大な量のサービス提供を両立に関する一つの答えとして Nitro 仮想化システム やGraviton を生み出し、Pinterest をはじめとする多くの企業がコストと環境負荷の両方の軽減を実現していると説明がありました。
Nitro システムによる高度なセキュリティ対策(暗号学的な認証など)は、グローバルなインフラ全体でリアルタイムの整合性チェックを可能にしています。 また、Graviton により、Amazon Aurora (以下Aurora) やAmazon DynamoDB (以下 DynamoDB) といったAWS サービスが最適化され、Prime Day のような大規模イベントでの効率向上を実証しています。
また顧客から求められる次のチャレンジとして生成AI への注力を上げ、NVIDIA との14年に及ぶ協業 を強調した上で新しいP6 インスタンスをはじめとするコンピューティングサービスの発表を行いました。
AWS のコンピュートやストレージなどの技術についてより深く知りたい方は、re:Invent 初日の夜に行われるナイトセッションをご覧いただくことをお勧めいたします。KEY001 | Monday Night Live with Peter DeSantis
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2 ストレージ
ビルディングブロックの二つ目はストレージです。 AWS クラウドが現る以前、私たちはストレージを維持するために際限がないほどディスク交換作業を行なっていました。 しかし、2006年にAmazon S3 (以下S3) が発表されて以来、それらは不要になり、現在は400 trillion を超えるオブジェクトが保存されています。 また、10年前はペタバイトクラスの容量を使用している企業は100社に満たなかったが、現在は数千の企業が利用しており、エクサバイトを超える企業もいるとの紹介がありました。
S3 は汎用的なものからアーカイブ専門のものまで利用用途に応じて幅広いラインナップがありリリース以来進化を続けています。 現在多くの分析基盤としてApache Iceberg が使用されているが、セキュリティやスケールの管理はチャレンジングな課題だとし、その問いへの回答として S3 Table Bukects と S3 Metadata を発表しました。
3 データベース
クラウドが生まれる前のデータベースでは非常に多くの保守作業が必要としました。 しかし、AWS が初のフルマネージ型のDB となるAmazon RDS (以下RDS) を発表し、これまでの煩雑な保守が不要になったと紹介しました。
加えて、AWS は利用者の70%がシンプルなキーの検索クエリのみを行っている点に注目し、さらにコストとパフォーマンスを改善するため、初の目的特化型DB となるキーバリュー型のDynamoDB が生まれました。
リレーショナルデータベースの進化系としてはこのre:Invent で十周年となるAurora を上げると、次の世代のAurora としてマルチリージョンでの同期とパフォーマンスの両立を可能にするPostgreSQL 互換のAurora DSQL をはじめとする新しいラインナップの発表を行いました。
ここでAWS としては珍しく、他社製品とのベンチマーク比較を見せた点には後に多くの参加者からも意外だったとの感想が見られましたが、個人的にはユーザーのマルチクラウド利用が進む中、クラウドベンダー同士の競争が激化することはユーザーにとってはメリットが大きい面があるとも感じました。
4 推論 (生成AI)
ビルディングブロックの4つめについてはサーバーレスや汎用的なサービスなど文脈によってCognito やネットワーク (3日目のキーノートではネットワークになっていました) など若干入れ替えがある印象ですが、今回は全く新しい要素として生成AI によるinference (推論) が挙げられました。
Matt Garman 氏は生成AI による推論は全てのアプリケーションコアであるとし、これらを実現するためのソリューションとしてAmazon Bedrock (以下Bedrock) が誕生したと説明しました。
その後、高速でコストを抑えたモデル生成のための Amazon Bedrock Model Distillation 、AI におけるハルシネーション への対応として事前に設定した企業のガイドラインなどのガードレールに基づいてLLM の出力の正確性を数学的に検証する Automated Reasoning Check など、もはやメモが追いつかない程矢継ぎ早に発表が行われて目が回りそうです。
Amazon CEO Andy Jassy 氏の登壇
このキーノートで最も印象に残ったのは、元AWS CEO で現在 Amazon のCEO を務めるAndy Jassy 氏のゲスト登壇でした。
Andy Jassy 氏が発表した新たな基盤モデル「Amazon Nova 」は、Amazon Bedrock で提供される最先端の基盤モデルで、Nova Micro / Nova Lite / Nova Pro / Nova Canvas / Nova Reel の5つからなり、それぞれテキストのみのコストパフォーマンス重視のモデルからハイエンドの動画生成モデルまで幅広い用途に対応可能との説明がありました。
もともと以前はAndy Jassy 氏が初日のキーノートを務めていたこともあり、当時の様子さながらにテクノロジーについて熱く語りながら新サービスを発表し、後半戦のもっともホットな生成AI のトピックの始まりに華を添える姿は昔からのAWS ユーザーにとって嬉しいサプライズとなりました。
その後もMatt Garman 氏による発表ラッシュは収まる様子はなく、Amazon Q Developer / Business の新機能、データ分析のための新たな統合環境としてAmazon SageMaker Unified Studio が発表されるなど、盛りだくさんのキーノートとなりました。
今回予定時間をオーバーする2時間45分以上にわたって行われたキーノートの半分以上の時間を生成AI 関連のサービス紹介に割くほどのボリュームで、生成AIの利用がAWSサービスのあらゆる部分に及んでいることを印象付けたと感じました。
12/4 Keynote with Dr. Swami Sivasubramanian
1日目に発表された新サービスのボリュームがとても多かったため、2日目はあまり発表がないだろうと油断して会場に来なかった方もいたようですが、こちらのキーノートでも Amazon SageMaker, Amazon Bedrock を中心に非常に多くの発表がありました。
Bedrock シリーズ
Amazon Q Business シリーズ
Amazon Q Business によるSaaS とのインテグレーション
中でも個人的に印象的だったのは、キーノートの最後に紹介されたAWS Education Equity initiative の発表でした。
AWS Education Equity initiative は、非営利団体、営利団体、財団、慈善団体、政府など、次のセクションで説明する基準を満たしていれば、どのような団体でも応募できる取り組みです以下のサイトから申し込み可能です。https://amazonmr.au1.qualtrics.com/jfe/form/SV_4YCvdwSUJhKQ6Ng
サイトより
AWS では、クラウドのパワーを活用し、AWS テクノロジーへのアクセスを、世界中の十分な教育を受けていないコミュニティの学習者に向けて学習ソリューションを構築、拡張、革新する組織に提供することで、教育への障壁を低減する独自の立場にあります。AWS のテクノロジーへのアクセスを提供することで、私たちの目標は、学習者とそのコミュニティが、ますますテクノロジー主導の世界で活躍できるようになるための、未来のスキルへのアクセスを提供することです。
AWS 教育エクイティ・プロモーション・クレジット
AWS は、世界中の十分な教育を受けていない、あるいは十分な教育を受けていないコミュニティに影響を与える教育格差に取り組んでいる特定の機関や企業に対して、AWS プロモーション・クレジットを提供しています。
AWS プロモーショナルクレジットは、お客様のプロジェクトに関連するAWS サービスの利用を支援するものです
AWS プロモーションクレジットは、お客様がAWS サービスを利用する際のコスト削減に役立ちます
AWS プロモーションクレジットの使用には、AWS プロモーションクレジット利用規約が適用されます
AWS プロモーションクレジットは、AWS プロモーションクレジット規約に定義されている対象サービスのみに適用されます
AWS プロモーショナルクレジットは、最大100,000ドルまで申請することができ、AWS プライシング計算書を添付して申請する必要があります。(ソリューションのデプロイに成功し、付与されたクレジットをすべて使用した場合、お客様のソリューションをサポートするために必要であれば、その時点でクレジットの拡張を申請できる場合があります)
Swami Sivasubramanian 氏は、AI 時代にはスキルを身につけるための適切な学習環境が必要とされるが、ユネスコによると500万人もの子供達がデジタルラーニング環境にアクセスできていないといいます。
AWS はこのような課題に対して全世界で200万人以上の学習者に無料のAI スキルトレーニングを提供しており、2025年末まで2,900万人に対してクラウドスキルトレーニングを提供する目標をすでに達成しているとの紹介がありました。 加えて、AWS は、十分な教育を受けられていない学生がAI、クラウドコンピューティング、識字能力などのスキルを習得できるよう、1億ドルを拠出すると発表しました。
クラウドやAI は人々から仕事の機会を奪うのではなく、このように多くの方にとってチャンスを生み出すものであって欲しいと感じました。
12/5 Dr. Werner Vogels Keynote - Lessons in Simplexity
今日はいよいよre:Invent 2024 の締めくくりとなるキーノートです。 Amazon CTO のWerner Vogels 氏によるセッションは、昨年に引き続きカルテットによるロックやポップスの名曲の演奏から始まりました。 一週間AWS にどっぷりと浸かっていると、この4人の構成すら美しいビルディングブロックを表しているのではなどと考え始めてしまいます。
Werner Vogels 氏は自身の20年に及ぶキャリアでの学びから、「Simplicity needs discipline」と繰り返し、テスラーの法則によるSimplexity をテーマとした6つのポイントを紹介しました。
Lessons in Simplexity
Make evolvability a requirement
Break complexity into pieces
Align organization to architecture
Organize into cells
Design predictable systems
Automate complexity
Werner Vogels 氏のキーノートは毎回ユニークでre:Invent を代表するセッションの一つです。 オープニングムービーやプレゼンテーションのビジュアルも美しいので、こちらはぜひ動画でご覧いただくことをお勧めいたします。
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Werner Vogels 氏は会場にいる53カ国から参加している257名のAWS コミュニティヒーローと他の参加者に対し、お互いに繋がって学びを共有しようと呼びかけました。
最後に「今夜のパーティでお会いしましょう!」とアフターパーティとなるre:Play を盛り上げるバンドとDJ を紹介し、今年のキーノートを締めくくりました。
Werner Vogels 氏が説明したSimplexity はキーノートの時間だけで理解するのは難しく、このイベントを通じて多くの参加者と繋がり、これからディスカッションする中で理解を深めていくために与えられた宿題だったのかもしれませんね。
それではまた!
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